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神戸家庭裁判所 昭和34年(家)404号 審判 1959年6月30日

申立人 大井文子(仮名)

相手方 加賀守男(仮名)

事件本人 加賀幸一(仮名)

主文

当事者間の未成年の長男幸一(昭和二八年七月○○日生)の親権者を申立人と定める。

理由

本件申立の要旨は、申立人と相手方とは昭和二七年二月○○日婚姻したのであるが、神戸家庭裁判所昭和三三年(家イ)第五〇五号離婚等調停手続において昭和三四年四月二〇日調停による離婚をした。その際当事者間の長男幸一(昭和二八年七月○○日生)の親権者を定める協議が調わず、審判手続によつて指定を受けることを合意したのでその指定の請求をするというのである。

神戸家庭裁判所昭和三三年(家イ)第五〇五号離婚等申立事件の記録中の戸籍謄本、当庁調査官の調査報告書、調停調書の各記載並びに申立人及び相手方各審問の結果を綜合すれば、申立人と相手方とは昭和二七年二月○○日婚姻届をした夫婦であること、上記夫婦は昭和三四年四月○○日調停離婚をしたことが認められ、その際父母の間に未成年者である長男幸一の親権者を定める協議が調わなかつた結果親権者の指定については審判手続により定める旨の合意が成立したことも明らかである。

よつて案ずるに前顕各証拠によれば相手方は○○商業学校を卒業したが定職として永く勤務した職業もなく、結婚以来旅館業を営む自己の両親の援助を受けて暮していたが、偶々昭和二九年四月バイクモーターの無謀操縦による交通事故の結果大腿部切断の手術を受けて以来昭和三二年一〇月一〇日以降一年の期間○市所在の○○○身体障害者職業訓練所に入所して職業の補導を受け、現在は昭和三四年一月四日以来月額六、〇〇〇円の給料で肩書住居地○○印房に住み込み印刷の仕事など修習中であること、一方申立人は夫婦の家計を維持すべき定収入のないところから相手方及びその母等の諒解と同意の下に昭和三〇年四月四日以降「スタンド」やバーなど飲食店に勤務することになり、その収入によつて夫婦及び長男の家庭生活を維持して来たものであること。

申立人は相手方が上記職業訓練所に入所する機会に昭和三二年一〇月以降長男を連れて現住所に別居したが爾来夫婦が離婚するに至るまで相手方は生活費の仕送りをすることもせず僅かに相手方の母がその間に五、〇〇〇円を申立人等母子に給付したことがあるに過ぎない状態であつたということ並びに未成年者本人は現に申立人方で物心両面に亘り行き届いた配慮の下に監護保育せられていることなどの事実が認められる。

相手方は右足切断の災禍以来従来の無責任な生活態度を反省し、子に対する親の責任を自覚しているようにみられる点もあるけれども現在なお経済的にも自立、自営の域に達せず同人自身申立人の未成年者に対する愛情と保育の能力を認めているのであるから単に申立人がバーに勤めているということだけで未成年者の親権者として申立人が不適当であるという相手方の主張は到底承認し得ないところであつて、むしろ婚姻中における申立人の献身的な協力扶助と未成年者幸一の養育に対する愛情や態度からみれば申立人は未成年者の親権者としてその資格と能力とを有するものというべきである。

以上の諸点、その他本件に顕われた諸般の事情を考慮すれば特に格別の事情が発生しない限り申立人を未成年者幸一の親権者と定めるのが相当であると認められる。

相手方は前記幸一の親権者を父親である相手方に指定するのが当然であると主張するけれども上記の理由によりその主張を認容することができない。

よつて主文の通り審判する。

(家事審判官 山下鉄雄)

参考 (神戸家裁昭三三(家イ)五〇五号 離婚等調停申立事件 昭和三四・四・二〇調停成立 申立人 加賀文子(仮名)相手方 加賀守男(仮名))

調停条項

一、申立人と相手方とは本日調停離婚をする。

一、双方間の長男幸一の親権者については神戸家庭裁判所の親権者指定に関する審判手続により定める。

一、当事者双方は本件離婚に関し、互に財産分与、慰藉料の請求をしない。

以上

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